1998年8月より、有本(理事)が中心となり、孟子不動谷内の動植物の生息調査を実施しています。その調査日に確認できた動植物に加え、未来遺産運動時に確認した動植物をすべてリストとしてまとめています。

里山環境には、雑木林、水田、畑地、溜池などバラエティーに富んだ環境がモザイク状に点在しているので、森林性、草地性のほ乳類が生息しています。在来種ではムササビ、テン、イタチ、ニホンリス、ヒメネズミ、アカネズミ、ハタネズミ、カヤネズミ、ジネズミ、ヒミズなど、広範な種類のほ乳類が記録されています。コウモリ類も、アブラコウモリ、コキクガシラコウモリ、モモジロコウモリ、ヒナコウモリなど、比較的多くの種類の飛来をバットディテクター調査により確認しています。

(1)ほ乳類

ほ乳類で問題になっているのは、人為的移入動物の種数&個体数の増加傾向です。1955年頃に大池遊園から放逐されたタイワンザルが在来のニホンザルと交雑して形成された混血ザル個体群は、和歌山県及び京都大霊長類研による駆除対策により壊滅させましたが、2000年に移入したイノシシ(イノブタ起源)、2018年から行っている向陽中学理科部のロボットカメラ調査により参入が詳らかになったアライグマ、ハクビシン等の個体数増加が著しく、今後孟子不動谷で細々と継続されている農業および、生態系に大きな悪影響が出る可能性があるので、注意深くモニタリングしています。

2020年を契機に、不動谷の雑木林に大型哺乳類の参入が目立つようになりました。向陽中学校理科部のロボットカメラにニホンカモシカ(うし科)、ニホンジカ(しか科)が撮影頻度はそれほど高くないものの写りこむようになりました。2021年に初めて写りこんだ時は1歳♂であったニホンジカが2022年に2歳になるのもカメラモニタリングにより確認することができましたし、和歌山大学・原准教授が犬飼池水路に設置している無人カメラに立派な♂成獣のニホンジカが写りこんだと教えてくださいました。森が深くなることにより、今まで全く確認されなかった大型哺乳類の参入が見られるようになってきていることは、孟子不動谷の森林環境が変貌していることを表します。
向陽中学理科部のロボットカメラには、ニホンリス(りす科)がコンスタントに写り込んだり、近年記録の途絶えていたアカギツネ(いぬ科)が久々に写りこんだりといううれしいニュースもあるので、森の変貌が生息する哺乳類に今後どう影響し種組成が変化するのかを、しっかりと記録にとどめていきたいと思っています。

(2)鳥類

孟子不動谷の大きな特徴は、最大高度でも240mほどの丘陵地に形成された森林であるにもかかわらず、きわめて多くの森林性鳥類の繁殖が確認されていることです。1998年発足以来2020年までに繁殖およびそれを示唆する行動が確認されている主な森林性鳥類には、フクロウ、サシバ、ハチクマ、ヒヨドリ、ヤマガラ、シジュウカラ、エナガ、メジロ、サンショウクイ、オオルリ、キビタキ、サンコウチョウ、コサメビタキ、クロツグミなどがあります。中でも和歌山県RDB絶滅危惧Ⅱ類・サンコウチョウの個体数が多いのが大きな特徴と言えるでしょう。

それに近年、雑木林の間伐管理の滞りにより森林が発達したことにより、時折クマタカ成鳥の飛翔が確認されたり、繁殖期(5月)にキバシリの生息を標高100m前後の地点で確認されたりと、深い森に住む種類の確認例も出てきています。鳥類の種類数が増えるのは良いことなのですが、森が深くなり常緑樹の占める割合が増えることにより、かつての落葉樹優占の疎林的な環境を好むサシバ、シジュウカラ等の個体数が減少したりしているので、注意深いモニタリング調査を継続しています。


3)両生爬虫類

孟子不動谷は棚田地形の水田地帯であるため、成体の時期に森林環境に依存するセトウチサンショウウオ、ニホンアカガエル、シュレーゲルアオガエル、ニホンヒキガエルなどの近年県下全域で減少している種類が比較的安定して生息しているのが特徴です。ニホンアカガエルはビオトープ孟子が掘削管理している水辺ビオトープ(とんぼ池)に多く産卵しており、セトウチサンショウウオは山間に点々と存在する小規模な溜池で産卵しています。近年耕作放棄地の増加と国内移入動物・イノシシの食害により個体数は減少傾向にあるものの、和歌山県で記録のある全種のヘビが記録されています。両生爬虫類は、昆虫その他の小動物を捕食し、ハチクマ、サシバ、アオサギ等の鳥類に捕食される、中間捕食者という生態系の非常に重要な位置にあり、個体数減少は大きな影響があるので、注意深くモニタリングを継続しています。

セトウチサンショウウオ(さんしょううお科)は、水辺ビオトープでの産卵が確認されているものの、年により産卵数が不安定で心配していたのですが、2020年に県立自然博物館・松野学芸員が多数産卵する古い溜池を発見してくださいました。それ以来その溜池に産卵する卵をモニタリングしていますが、毎年50~70個の産卵が確認できています。

4)昆虫類

昆虫類の構成種も非常に豊かです。ビオトープ孟子の里山保全活動の中心が、稲作水系の復元なので、無農薬稲作を実践している圃場や水辺ビオトープ(とんぼ池)、谷を東西に横切って流れる荒糸川で、69種(2022年、ムカシヤンマ(むかしやんま科)を初記録)のトンボ類が確認されています。その中には、オグマサナエ(さなえとんぼ科:和歌山県RDB準絶滅危惧種)、フタスジサナエ(さなえとんぼ科:和歌山県RDB準絶滅危惧種)、ベニイトトンボ(いととんぼ科:和歌山県RDB準絶滅危惧種)、アオヤンマ(やんま科:和歌山県RDB絶滅危惧Ⅰ類)、ナニワトンボ(とんぼ科:和歌山県RDB準絶滅危惧種)などの希少種も多く確認されています。

トンボ類のポテンシャルは高いものの、水生コウチュウ類や水生カメムシ類の生息種は貧弱で、この傾向は和歌山北部の水環境の傾向に合致しています。

チョウの種類数も多く、68種の確認がなされています。ミドリシジミ(しじみちょう科:和歌山県RDB準絶滅危惧種)、ミズイロオナガシジミ(しじみちょう科)などの森林性のシジミチョウ類も安定して発生しています。昆虫類も、基本的には里山にある薪炭林起源の落葉広葉樹林に住む種類が主流ですが、近年雑木林の定期的間伐が滞ることにより森が深く、常緑樹林化することにより、シダスケバモドキ(うんか科:和歌山県RDB準絶滅危惧種)、エゾヨツメ(やままゆが科)などの深い常緑樹林や標高の高い地点の豊かな森に住む昆虫の確認がなされるようになってきました。

また、近年よく言われる温暖化に伴い、アカギカメムシ(きんかめむし科)、ベニトンボ(とんぼ科)などの熱帯性の種も確認されたり定着しそうになったりしてきています。
アカギカメムシ(きんかめむし科)の発生は、一過性に終わりましたが、ベニトンボはコンスタントに確認されていますし、2021年からはシンジュキノカワガ(こぶが科)の参入が確認されています。2021年は幼虫及び蛹が多く確認されたのみで成虫の姿は確認できなかったのですが、2022年夏には昼間林内を飛ぶ成虫の姿が確認されるようになり、本種も定着に向け個体数が増加しているようです。

(5)淡水魚類

稲作水系は、天堤池、犬飼池、不動池の主要な農業灌漑用の溜池と、その他点在する小池が数個、それに耕作水田(ビオトープ孟子無農薬水田含む)と、水辺ビオトープ(とんぼ池)です。

溜池には、かなり以前に放逐したと考えられる外来のコイとギンブナ、モツゴが生息しています。今のところオオクチバスやブルーギルの参入は確認されていません。水田及び水辺ビオトープ(とんぼ池)には、ミナミメダカ、ドジョウが定住しており、荒糸川からの流入と考えられるシマヒレヨシノボリ、ドンコが生息しています。いっぽう、自然水系は貴志川支流に位置付けられる荒糸川です。荒糸川には、シマヒレヨシノボリ、ドンコが生息しており、スジシマドジョウが捕獲されたことがあります。

年別観測成果

①令和4(2022年)
(哺乳類)
   2022年6月18日回収した、向陽中学校理科部の定置カメラにアカ
ギツネ(いぬ科)が写りこみました。孟子不動谷でアカギツネの
   存在が記録されたのは本当に久々のことでした。

 (鳥類)
   ①エゾセンニュウを初記録
   2022年6月18日、向陽中学校理科部により行った不動谷内のライン
   センサス調査で、エゾセンニュウ(せんにゅう科)を初記録しまし
   た。141種類目です。入口付近の水田は、ここ数年で一気に耕作放
   棄されてしまいました。エゾセンニュウのような草地性の鳥類が確
   認されるのは、耕作放棄により水田が湿性の高茎草地に遷移したの
   が原因と考えられます。
   ②サンコウチョウの繁殖を記録
   サンコウチョウは1998年活動開始当時から孟子不動谷に多く見ら
   れる夏の渡り鳥です。今年、非常に観察しやすい地点に造巣して
   いるペアを発見し、造巣から巣立ちまでを観察することができま
   した(2022年6月11日~7月3日)。
   造巣中はクモの糸で外装を行ったあと、地衣類を植栽する様子を
   撮影することができ、孵化後一週間で巣立ちを行うことも確認す
   ることができました。
   ③サシバ、久々に巣立ちビナを確認
   サシバは1998年活動開始当時は不動谷内で普通に繁殖していまし
   たが、耕作放棄地の増加や、雑木林の間伐が行われなくなること
   による高木化などに起因して繁殖が途絶えていました。
   それが2021年から繁殖が再開され、その年はクスサン幼虫と思わ
   れる巨大なイモムシを巣に運ぶのが確認されたりしましたが、途
   中繁殖失敗したのか巣立ちの幼鳥の確認ができません
   でした。それが今年は2022年9月10日に行った向陽中学校理科部
   の鳥類調査時に幼鳥1羽を確認することができました。サシバの
   繁殖が再開され、巣立ち雛を確認できたことは、非常に喜ばしい
   ことです。
   ④キビタキ(ひたき科)、年2回以上繁殖を確認
   キビタキ(ひたき科)は、孟子不動谷一帯にごく普通に渡来し繁
   殖する夏の渡り鳥です。毎年観察していて、彼らの囀りに2回の
   ピークのようなものが見いだされ、年2回繁殖しているのではな
   いか?と思っていたのですが、なかなかその証拠となる事例が確
   認できずにいました。
   それが今年、6月8日に1番子が巣立ちしたテリトリで、8月5日2
   番子が巣立ちするのを確認することができました。8月5日に巣
   立ちした雛を8月12日まで継続観察することができ、多くの映
   像資料を得ることができました。観察中、テリトリ内に巣立ち
   雛と明らかに違うステージの幼鳥を確認することができたので
   すが、撮影した写真を詳しく見てみると、その幼鳥の中にも、
   第一回冬羽への換羽が始まっている個体と、完璧な幼鳥羽の個
   体が確認できました。
   この結果により、このペアは、6月、7月、8月と3回雛を巣立
   たせている可能性が高いことがわかりました。キビタキはその
   生活の殆どを暗い林内で行い、巣立ち直後の雛が「ジィー」と
   良く鳴くので巣立ちが確認できるほかは、なかなかその生活史
   を追跡観察できないのですが、今回8月に確認した巣立ち雛が
   、参道沿いの比較的疎な林で巣立ったおかげで、1週間以上も
   追跡観察することができたので、いろいろな謎を解き明かす
   ことができたのでした。

(昆虫類)
   ①ムカシヤンマ初記録
    2022年5月25日、水辺ビオトープ(とんぼ池)周辺で、ム
    カシヤンマ♀成熟個体を確認し撮影しました。孟子不動谷
    でムカシヤンマを確認するのは、1998年活動開始以来初め
    てのことでした。これで孟子不動谷トンボリストは69種に
    なりました。
    ムカシヤンマの幼虫は滝などに生えたコケの中で生育する
    習性があり、孟子不動那賀寺の「不老の滝」で発生してい
    る可能性もあるのですが、成虫の移動能力の高い種なので
    、他所からの飛来の可能性も否定できないので、今後も注
    意深く観察を続けたいと思います。

②令和5(2023)年
(哺乳類)
(鳥類)
  ①ヒタキ類
    キビタキ、コサメビタキ、オオルリ、サンコウチョウの繁殖
    成功は確認できました。サンコウチョウは昨年に引き続き天
    堤池直下のハンノキ林に営巣を確認し、巣立ち雛をかなり長
    い期間追跡するのに成功しました。あとの3種は巣立ち雛(
    幼鳥)を確認しましたが、昨年のように長期間追跡観察でき
    ませんでした。
  ②猛禽類
    ハチクマ、サシバ共繁殖しました。ハチクマは営巣依頼餌運
    搬を頻繁に観察し巣の位置の特定もできたのですが、残念な
    がら巣立ち雛の確認はできませんでした。
    いっぽうサシバは渡来し例年通りの場所に縄張り定位したま
    では追跡できたものの、その後出現が全くなく消息不明でし
    たが、3羽の巣立ち雛を確認できたので、繁殖成功が確認で
    きました。
  ③その他鳥類
    ふゆみずたんぼ(田んぼビオトープ)及び水辺ビオトープ
    (北原池&黒江小学校池)でヒクイナが営巣し無事雛が巣
    立ちました。ヒクイナは昨年まで、入口のガマが生えた休
    耕田、坂本さんの水田周辺、蓮池で繁殖が確認されていま
    したが、その他の場所で繁殖を確認したのは今年が初めて
    のことでした。  
(両生爬虫類)
  ①セトウチサンショウウオ新産卵池発見
    わんぱくクラブBコースに今年度入会している吉田圭佑君
    が、資料館西側にある「あやめ池」で卵塊数個を観察した
    ことを知らせてくれました。
    今年大阪府立大学出身の鈴木真裕さんが孟子の無農薬圃場
    やとんぼ池の水生生物の調査をしてくださっているのです
    が、「あやめ池」で数100頭のセトウチサンショウウオ幼
    生を確認したと知らせてくれました。
    「あやめ池」には現在ガマが繁茂しており、水中の卵塊を
    正確にカウントすることが難しくなっているのですが、状
    況から推察すると孟子不動谷で最大の産卵池である可能性
    が高いです。ガマを抜き取ってしまうと産卵を止めてしま
    う可能性があるのでそのままにして、来年しっかりモニタ
    リングを行いたいと思います。
  ②今年もツチガエルを確認できず
    ツチガエルは1998年活動を始めた当初は安定した個体数で
    生息し、入口の水田、無農薬圃場、とんぼ池で産卵してい
    ましたが、入口の水田が一気に休耕田になったのを契機に
    個体数が激減し、3年連続で確認できなくなっています。
    ツチガエルのニッチにはそれまで個体数の少なかったヌマ
    ガエルが入り込んでおり、ツチガエルは絶滅状態になって
    しまいました。
(昆虫類)
・クワガタムシの発生種数が久々に改善
    2022年にはコクワガタ、ノコギリクワガタの2種しか確
    認できなかったクワガタムシ類が、2023年度はコクワガ
    タ、ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタ、ヒラタクワガ
    タの4種確認できました。
    2022年度から、諸助成金によりクワガタムシの繁殖関係
    改善のため、シイタケ榾木を再構築していますが、クワ
    ガタムシは羽化まで数年かかる種が多いので、今回のと
    りくみの効果が現れたとは考えにくいので、今年の発生
    数が単純に多かったのだと思います。
    クワガタムシのモニタリングをしている樹液溜まりのあ
    るクヌギのすぐそばに榾木場があるので、今年榾木に産
    卵した可能性が高いので、改善に向けた動きが来年度以
    降あることを期待したいと思います。
  ・ミズカマキリ(たいこうち科)初記録
    8月に実施した「わんぱくクラブBコース」定例活動中
    に、ミズカマキリ(たいこうち科)が初記録されまし
    た。水生甲虫類&半翅類はもともと種組成が貧弱なの
    に加えて、近年見られなくなった種が多くなってきて
    いるので、先行き明るい「朗報」として期待していま
    す。
  ・ベニトンボ(とんぼ科)生息状況
    2020年に孟子不動谷にて初記録された南方系の種・ベ
    ニトンボですが、年々観測される個体数が増加してい
    ます。
    2023年度も、トンボ池周辺及び荒糸川水門周辺でほぼ
    定住しており、トンボ池で確認できる個体数も増加傾
    向にあります。
    ただ気がかりなのは、産卵しているシーンの目撃やヤ
    ゴの採集が全くできないことです。見聞によると、ベ
    ニトンボには小河川のような流水域で発生するタイプ
    と溜池のような止水域で発生するタイプがあるそうで
    すが、孟子で定着しようとしている個体群がどちらの
    タイプであるかなど、確認できるように今後もモニタ
    リングを継続したいと思います。
  ・シンジュキノカワガ(こぶが科)増加傾向
    2022年から確認されているシンジュキノカワガが、ど
    んどん個体数を増やしています。
    2023年は、冬(12月)に入っても成虫が観察できるよ
    うになり、発生最盛期の夏(7~8月)は、昼間でも
    林内を飛びまわる成虫が目撃できるほどでした。

  

 


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