2024年度から助成をいただいている「未来につなぐふるさと基金(パブリックリソース財団・キャノンマーケティングジャパン)」により、2024年9月環境省自然共生サイト登録を行った海南市孟子不動谷の自然再生エリア(とんぼ池・ふゆみずたんぼ等)を中心とした水域のモニタリング調査を、海南市在住の藤田昂己さん(両生類)、大阪在住の鈴木真裕さん(その他動物)により行っていただいています。
同年度の調査(助成)期間は2025年7月までですが、4月までの調査結果の概略を報告させていただきます。
①孟子不動谷内水域の両生類以外の動物調査
大阪在住の鈴木真裕氏により2025年3月~7月に3~4回/月の現地調査と、在宅による分類同定作業を行っていただいています。調査行程の全てに有本が同行できていないので、具体的な個体数等の情報は不明な部分も多いのですが、今まで有本が継続してきた調査方法ではわからなかった特筆すべき情報について、概略を報告させていただきます。
<自然再生エリア(とんぼ池・ふゆみずたんぼ等)>
荒糸川堰のそばの、参道(農道)がクランク状に屈折した部分に2枚設営し、2年前に坂本理事長が蔓延っていたヨシ(いね科)を除伐しハス(現地にアナウンスしている大賀蓮ではなく、普通の園芸品種)を植栽したことから「蓮池」と呼称している2枚の池があります。この池のポテンシャルが予想以上に素晴らしいことが今回調査で詳らかになりました。
1、シャジクモの生育が良いことにより、環境省レッドリスト記載のコガシラミズムシ類が生息
孟子不動谷の耕作地にはもともとシャジクモが多く、1998年初めて孟子不動那賀寺の石段下にとんぼ池を掘削した際も夥しい個体数のシャジクモが繁茂しました。しかしこのシャジクモは、水田耕作を継続し、毎年湿地>陸地を繰り返す管理を行わないと発芽しなくなる先駆性の植物であることが知られ、現行のとんぼ池でも滞水環境を20年以上継続したことで繁茂しなくなっています。
今回確認されたコガシラミズムシ類(キイロコガシラミズムシ)は、シャジクモを好んで食べる習性があるので、現在多数繁茂しているシャジクモにひかれて飛来したものと考えられます。
2、小型ゲンゴロウ類の個体数が回復
1998年2月に自然再生活動を開始した当時には、マメゲンゴロウ、クロズマメゲンゴロウ、ヒメゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、ハイイロゲンゴロウ、ホソセスジゲンゴロウなど、比較的多くの小型ゲンゴロウ類が確認されていたものの、近年ではマメゲンゴロウ以外の種が殆ど確認されていませんでしたが、今回蓮池でウスイロシマゲンゴロウ(和歌山県RDB情報不足)、ヒメゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、マメゲンゴロウ、ハイイロゲンゴロウの5種が確認できました。ウスイロシマゲンゴロウは、現在「こうもさとやまクラブ」に在籍する吉田圭佑君がとんぼ池で2024年に採集した成虫が海南市初記録のなった種ですが、それが蓮池には多数生息していることがわかりました。蓮池には、かつては超のつくほどの普通種であったものの近年激減して心配していたオオミズスマシ(みずすまし科)も個体数が回復していることが今回の調査でわかりました。
<犬飼池>
江戸享保年間、当時紀州藩主であった徳川吉宗が行った紀の川流域新田開発事業の際に掘削された孟子不動谷の水田環境の水をつかさどる溜池のひとつです。有本がトンボ成虫のモニタリングをすることで、池に多くのイヌタヌキモ(たぬきも科)が繁茂していたり、2024年に孟子不動谷71種目のムシジイトトンボ(いととんぼ科)が確認されたり、2022年に吉田圭佑君が孟子不動谷70種目のコフキトンボ(とんぼ科・和歌山県RDB準絶滅危惧種)幼虫を確認したりしていたので、孟子不動谷内にあり今も溜池管理を同地水利組合が継続している3池(犬飼池、不動池、天堤池)の中ではポテンシャルが高そうだとは予想していたのですが、今回鈴木氏の調査によりその裏付けができました。
1、シャジクモの繁茂が多く、キイロコガシラミズムシ、ヒメコガシラミスムシが多い
犬飼池は、3池(犬飼池・不動池・天堤池)の中で最も季節による水位変動が大きく、池の奥にある浅瀬部分は例年干上がるため、オオオナモミの多数生育が確認されています。そういった地目であるため、先駆性藻類・シャジクモの繁茂が著しく、蓮池で初記録が出たキイロコガシラミズムシ(こがしらみずむし科)に加えてヒメコガシラミズムシ(こがしらみずむし科)も確認できました。それに加えて孟子不動谷でその生活史に不明部分の多かったオグマサナエ(さなえとんぼ科・和歌山県RDB準絶滅危惧種)、トラフトンボ(えぞとんぼ科)の終齢幼虫も採集することができました。
2、ヒメミズカマキリ(たいこうち科)を久々に確認
4月調査に同行していた吉田圭佑君が、孟子不動谷で確認例が久しく途絶えていたヒメミズカマキリ(たいこうち科)を採取しました。同種はかつてはとんぼ池で少数ながら採集できましたが近年全く確認できなくなっていたので、今回の記録は貴重なものです。今回の調査により犬飼池は、1998年に掘削したとんぼ池が、長年滞水として継続管理することにより姿を消していた先駆的な水生生物の「逃げ込み場」としての機能を持っているのではないかという仮説を立てることができる調査結果を得ることができました。先駆的性質を持つ水草や水生生物の保全は、最も困難なもので、現時点ではどうやって保全するのが得策であるかは不明な部分が多いのですが、今後解決すべき課題であることは確かなので、彼らが犬飼池に避難できている間に何とか方法がわかればと思っています。
3、ベニトンボ(とんぼ科)の幼虫確認
2025年4月20日の調査で、ベニトンボ(とんぼ科)の亜終齢幼虫1頭が採取できました。ベニトンボは本来熱低性の種で、和歌山県南部に10数年前から飛来し定着を始めていました。和歌山県北部でも近年はかなり広範囲の溜池を中心に生息が確認されており、その確認事例も安定したものになってきていました。孟子不動谷でも、2019年当時県立向陽中学校理科部員であった保田航平氏により♂1頭が採集されて以来、年々個体数及び成虫の確認状況が安定してきたものの、産卵の目撃や幼虫の確認など、確実に孟子不動谷において命を繋いでいることを裏付けるデータがとれていませんでした。それが今回犬飼池で亜終齢幼虫が確認できたことで、ようやく本種が孟子不動谷で定着を始めていることがわかったのでした。
<とんぼ池>
1998年2月に活動が発足した際に「1号池」を掘削して以来、孟子里山資料館「やまかかし」周辺に拡大掘削している自然再生エリアです。
1、和歌山県RDB絶滅危惧Ⅱ類・ネアカヨシヤンマ(やんま科)の終齢幼虫確認
2025年4月20日の調査において、とんぼ池(きみひろ池)にて、ネアカヨシヤンマの終齢幼虫が確認できました。昨年夏に周辺で何度も♀の産卵が確認でき撮影も行っており、ヤゴの生育を期待していたので、今回の確認は非常にうれしいものでした。
現在孟子不動谷では、72種のトンボの確認がなされています。これは全て有本が中心になって成虫を採集&撮影することにより積み上げてきた確認種数です。モニタリング中、羽化が確認できたり、産卵・交尾などを確認できたものは都度記録していましたが、実際トンボたちの幼虫(やご)がどこで生育しているのかについてのモニタリングは行っていなかったので、今回水域ごとに確認できたヤゴのリストが手に入ることだけとってみても、今回の鈴木氏のモニタリング調査は、今後の同会の自然再生活動にむけて、有意義であったといえると感謝しています。
②孟子不動谷水域の両生類調査
海南市在住の藤田昂己さんにより2024年1月から調査を開始・継続中です。その中間報告として、2024年1月~3月に行ったニホンアカガエル(あかがえる科:和歌山県RDB絶滅危惧Ⅰ類)、セトウチサンショウウオ(さんしょううお科:和歌山県RDB絶滅危惧Ⅱ類)の卵塊調査の結果概略をさせていただきます。
この2種の両生類は、2002年2月にとんぼ池(北原池)で卵塊を初記録して以来、とんぼ池における卵塊の個数は有本によりカウントし記録してきましたが、それ以外の不動谷内の水域における産卵状況までは調査が及んでいませんでした。今回藤田さんは、国土地理院地図等により孟子不動谷内で溜池地形の記載のある地点をできる限り調査し、両種の卵塊のカウント調査を行いました。
①ニホンアカガエル(あかがえる科)
今回の調査により、623個の卵塊を確認することができました。ニホンアカガエルは、同会が管理している自然再生エリア(とんぼ池、蓮池、炭窯南池、ふゆみずたんぼ等)以外の水域にも卵塊の確認はできましたが、その分布の中心は自然再生エリアであることがわかりました。
②セトウチサンショウウオ(さんしょううお科)
今回の調査により、486個の卵塊を確認することができました。セトウチサンショウウオは、同会が管理している自然再生エリア(とんぼ池、蓮池、炭窯南池、ふゆみずたんぼ等)よりも、谷内に点在する今は水利組合による管理が途絶えている古い小規模な溜池及び溜池跡、イノシシ等大型哺乳類による「ぬた場」由来の水域などに多く卵塊が確認できることがわかりました。
3年前から定期的に孟子不動谷における2種の調査を継続してくださっている県立自然博物館・高田賢人学芸員によると、ニホンアカガエルは池の上に樹木の枝のかぶさりのない明るい滞水域を産卵環境として好むのに対し、セトウチサンショウウオは樹林内にある暗い滞水域を好む傾向が強いとのことで、孟子不動谷における今回の調査結果は、2種の習性をよく表したものだとの評価をされていました。
藤田さんには今後、シュレーゲルアオガエル、ニホンアマガエル、トノサマガエル、ヌマガエルなど、田植えとともに産卵活動が本格化する両生類の調査を継続して行っていただく予定です。
「未来につなぐふるさと基金」水域モニタリング調査中間報告
2025 / 5 / 6